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〈ましこのごはん〉益子の日常を「農業」と「陶芸」、そしてそれらが交わる「食」の観点から、「ましこのごはん」として紹介します。
大根を育てる人~池の入農園さんの大根~
池の入農園のスタイル
池の入農園さんが育てる大根は「紅くるり」、「サラダ赤大根」、「サラダ緑大根」、「もみじ大根」、「紅芯大根」の全部で5種類。紅芯大根は、益子の知り合いから作ってほしいと依頼を受けて作り始めたそうです。
この5種類の大根の中でも、ひときわ目立ち、人気なのが「紅くるり」。外だけでなく、中まで赤い大根です。この大根の種は近くで手軽に手に入るものではなく、わざわざ愛知から取り寄せているそうです。
「紅くるりは、にぎりこぶしくらいの大根。ほかの大根ほど重くないから私にむいてる大根。頭もでない※1から、冬になっても土寄せが必要なく手間もかからない。そして越冬も出来る。」
と語る池の入農園さん。
一人だからこそ
池の入農園さんは、上田幸子さんが一人で営む農園。忙しいとき収穫や出荷などを手伝ってくれる家族はいても、基本的には一人。
「まだ何年もやってない。50歳まで会社勤めをしてました。農家の出でもないし、ずぶの素人。だからほかの生産者のようにはできないことが多いんです。大きなトラクターもないし、人手もない。農業は本を読んだりしながら独学で学んだ。だから失敗もしました」と答える上田さん。
この年の初めに畑仕事中に転倒し、ケガをしてしまった上田さん。取材当時は少し足をひきずる程度で、農作業を行っていました。そのためこの年は白菜を作るのを休んだそうです。
「白菜は重い。先は見えているから、無理せず出来る範囲でやるようにしています」
池の入農園の定番であるサラダミックス等、軽い葉物の栽培が多い理由もそこにあるようです。
「自分の体と力量にあった野菜を作っています。でも、もしまたケガをしたりして、畑ができなくなったら、次は畑を返します」
と声を強くして言います。
先をきちんと見ながら年を重ね変化していく自分の身体に合わせて「できる範囲」を探し、その中で一生懸命を尽くすというスタイルには理を感じます。
日々の工夫
池の入農園さんの野菜は、時期にあまりない野菜を、しかもいろんな種類を栽培していることが魅力の一つ。
「夏のうちだと虫が来てしまう。だからできるだけ、遅く遅く作りました。〝早く早く〟ではなくて〝遅く遅く〟。来年の春の陶器市までに出せるよう作っています。他の人がなくなった時に出せたらと思っています」
「わたしの畑は〝こまい〟んですよ。少しずつ、順番につくっていく」
畑をブロックで管理し、連作を避け※2、丁寧に目をかけながらパッチワークのような畑を作っています。いろんな工夫が、池の入農園さんの魅力になっているようです。
待ってくれない存在、待ってくれる存在
入院をしていた時に外出許可をもらっては旦那さんに付き添ってもらいながら、苗を買いに行っていたそうです。
「苗や野菜は待ってくれない。いい苗を買いそびれたくなかった。その時じゃないと。周りにはやめとけって言われたけど、でも、ねぇ…」
上田さんは、毎年、陶器市に池の入農園として出店し、野菜や木の実等を販売しています。
「この前の春の陶器市のとき、私はケガで出店出来なかったんです。でも地主さんが他の人に貸さずにその場所を空けといて待っていてくれたの。そうなると秋の陶器市は出たくなっちゃうわよね。5日間だけだから、きっと大丈夫でしょう」
と、穏やかな笑顔。無理をするわけではないけど、待っていてくれる存在のために野菜づくりをする姿はとても楽しそうに見えました。
益子だから
「遊ぶのが好きなの」
とちょっと照れながら楽しそうに話してくれました。
「出荷しに行った後は、お店でお茶したりしていくの。おしゃべりが楽しくて。行くといろいろお土産もらっちゃうのよ」
「益子が大好き!」と照れずに言う上田さん。
「お客さんから作ってほしいと言われたから作り始めた」という野菜も多いそうです。
人とのお付き合いの中で育て始める野菜も多いからこそ、この町で遊ぶのが好きな上田さんだからこそ、おいしい野菜が育つようですね。
※1 大根は成長すると土から、大根の頭のほうを出す。冬の寒い時期には、この部分から冷害がおきてしまうので、土を寄せてその頭に土をかぶせるという手間が必要になる。
※2 同じ科の野菜を同じ場所で続けると育ちが悪い(=連作障害)と言われている。
次回は、池の入農園さんの大根を使った料理に器を提供してくれた陶芸家:田尾明子さんをご紹介します。