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〈ましこのごはん〉益子の日常を「農業」と「陶芸」、そしてそれらが交わる「食」の観点から、「ましこのごはん」として紹介します。
うどを育てる人~苅部公一さんのうど~
代々農家
苅部公一さんの家は代々益子で農業を営んできました。
昔から主品目として作ってきたのはたばこで、それは今でも変わらず続けています。
里山に囲まれたご自宅周辺の敷地はどこまでが農地でどこまでが山の中なのか見分けが難しいほど広大。
苅部さんはイノシシ狩りもするし山歩きも好き。だから当然、山菜等の山のものには詳しく、「季節になると私なんかでは絶対見つけられないようなところにある山菜を見つけては採ってくるのよ」と、これは奥様の静代さんのお褒めの言葉。
苅部さんの家では、たばこの仕事が無い、冬から春にかけての農閑期にうど作りを行っています。
身の回りにあるもので始めた
冬の農閑期に出来そうな仕事を、ということで始めたうどの栽培。もともとお父さんが天然のうどから採った芽で山うどの栽培をしていたり、栽培に使う籾殻は田んぼを持っているからたくさんあったりと、色々と身の回りにあるもので始めることができたので最初は気軽な感じだったといいます。ところが実際は始めてみるとなかなか厳しかったようです。
「最初はもうとにかく失敗の連続だった。温度管理が難しく、何本も腐らせてしまったりと、ロスが多いし、籾殻の床を温める電気代等の経費も思ったよりかかるから全然割りに合わなかった。それでもね、やり始めた以上はちゃんと続けたかったんだ。次第に数が採れるようになってきて、うちのうどを楽しみにしてくれる人も増えてきた。益子でうどを作っているのはうちを入れても数軒足らず。天然ものと違って栽培ものはアクが少なく味がまろやかでサラダにしてもおいしい。うどはほんとに捨てるところがないんだよ。ところがね、これはもともと人の手が加えられた改良品種なんだけど、繰り返し種を採って育てていると段々本来の山うどの味に戻っていっちゃうのよ。何年もやってるとそういう面白さも感じられるよね」
山や自然が教えてくれること
「山歩きをしていると12月頃からもうふきのとうを採るよ」
苅部さんが笑いながら楽しそうに話してくれました。
「まあ、素人じゃ絶対に見つけられないよ。その時期は日の当たる場所には無いからね。前年の枯れた葉っぱから見分けて採るんだ。山歩きをする我々はその時期のものを好んで採って食べている。植物は寒い時期に眠ることで栄養を蓄えておいしく育つんだ。うども冬の間しっかりと時間をかけて寝かせることがおいしさの秘密。こういうのは長年山と付き合ってきて学んだことなんだ」
でも近頃は暖冬のせいで、なかなかうまくいかないことも多いと言います。
「冬の間しっかりと寝かせられないから中途半端なタイミングで起こさなくてはいけなくなる。そうなってくると積算温度※が足りなくて、ほしい時期に数が揃わなかったり、場合によってはダメにしてしまうことだってある。うどに関しては大規模に栽培しているわけではないから何か一つでもバランスが崩れると、とたんに安定した栽培ができなくなる。色々と難しいよね」
家族みんなで仕事
奥様の静代さんの実家は兼業農家だったため、苅部さんの家に嫁いできてから本格的に農業を始めたそうです。
「本当に分からないことだらけで、最初は戸惑うことも多かったんだけど、家族みんなで一緒に同じ仕事をする、という苅部家のスタイルのおかげで学びながら何とかやってこられました。仕事中でも相手をしっかり見て、声を掛け合いながら仕事をするのはとても大事なことだと思います。何も分からない私にとってはそれが何よりありがたかったです。」
苅部さんおすすめのうどの食べ方はきんぴら、酢味噌和え。静代さんのおすすめは卵とじ。
ちなみにふきのとうは洗うだけで生のまま刻み、鰹節で和えて醤油で食べるのが酒のつまみとしては抜群においしい、とのことです。
話を伺っていて素直に思うのは、地に足の着いた暮らしや仕事をされている、ということ。言葉にすると簡単ですが、実際はなかなか難しいことだと思います。
代々受け継いできたもの、身の回りの環境、目の前にいる家族、日々の食事、すべてに向き合いながらも自然体で暮らしを営んでいる苅部さん。
その姿からはたくさんの学ぶべきものがあるように感じました。
※ 毎日の平均気温を合計したもの。作物の栽培では日数よりもむしろ毎日の気温の累計を成熟の目安として重要視する。
次回は、苅部さんのうどを使った料理に器を提供してくれた陶芸家:えきのり子さんをご紹介します。